フシギな話:大乗アート教

2023-10-09 アートフシギ

第2話:大乗アート教

ふと目を覚ますと、何もない空間が広がっていた。 この感じ…。すぐに、前回の記憶が蘇る。

ここは、宇宙を越えた特別な場所。 僕は今からここで、どこかの誰かと対話をする。 その相手もまた、遥か彼方からここに呼び寄せられる。

ただ一つ、“僕と共通の話題がある”という条件のもと、時を、星を、宇宙を越えて、選ばれた存在がここにやってくる。 僕はその相手と、僕が思いついたテーマについて会話をする。

暫くすると、目の前に画家風の格好をした動物のような者が現れた。

やあ、はじめまして。 僕はマスフォー。

はじめまして。 私はゴッシ。

どうやら、僕たちは全く違う世界から今ここに来ているらしいんだ。 夢だと思って、少しの間だけ会話に付き合ってくれるかな。

まさに夢って感じの状況だね。 面白そうだし、付き合うよ。

突然だけど、君に聞きたいことがあるんだ。

何だい?

生きる意味って、なんだと思う?

唐突で大きいテーマだね。 君はどう考えているの?

僕は最近子供が生まれたんだけど、それから何もかもが意義深く感じているんだ。

ほう。

今までは、仕事とか、家事とか、人生におけるそういう時間は、どこか義務的で単調なものに感じていた。 けど、今はその全てが我が子の命を育むための手段になっている。 そう思うと、何をしていてもすごく充実した気持ちでいられるんだ。

素晴らしい話じゃないか。 つまり、君にとっては子どもが生きる意味なんだね。

うん、少なくともここ最近の僕にとってはそうだ。 だから、全く違う世界で異なる価値観を持つ君はどうなのかなと思ってね。 考えを聞かせてよ。

私たちにとっても子供は希望を与えてくれる素晴らしい存在だよ。

感じること?

うん、生きている間にどれだけ何かを感じられるか、ということだ。

感じるって、具体的にはどんなことを指しているの? 感じ方にもいろいろ種類があるよね。

ネガティブな感情でなければ何でも良いさ。 喜び、楽しみ、あこがれ、ワクワク、うっとり…そういうものなら何でもOKだ。

なるほど。 すると君の世界では、家庭を育むのも、友達と遊ぶのも、仕事をするのも、趣味に打ち込むのも、すべて自分自身が何かを感じるため、ということなんだね。

その通りだね。 そして、自分が感じるだけではなく、いかに他者に“感じさせる”かも大事だよ。

感じることも、感じさせることも、両方大事なの?

うん。 皆が感じようとするばかりじゃダメだ。 需要ばっかりあっても、供給が追いつかなくなるだろう。 誰もが何かを感じさせようと頑張るからこそ、世界は何かを感じられる機会で溢れるんだ。

確かにそうだね。 誰かに何かを感じさせるために頑張ることって、例えばどんな事?

最もシンプルなのは、自分の内面を表現し続けることだ。 つまり、アートだね。 誰もがアートに生きるべきであり、それが唯一にして最上の生き方なんだ。 これは私たちの世界で共通の宗教でありルールでもある。 大乗アート教と呼ばれているよ。

世界で共通の考え方を持っているなんて素晴らしいね。 でもアートって高度で、誰もが出来る事ではないんじゃない?

もちろん、映画を撮ったり、音楽を作曲したり、絵を描いたり、文章を書いたり… そういう事を皆が出来るわけじゃないね。

うん、そうだよね。

別に難しいことはしなくても良いんだ。 一人ぼっちでも、スキルがなくても、お金がなくても… どんな環境でも、きっと何かはできるはずだからね。 自分にできる限りのことを、できる範囲に向けてやり続ければ良いさ。

難しくないアートってどんなこと?

そうだなあ… 好きな服を着て出かけたり、庭で好きな花を育てたり、あるいは、会話の中で面白いことを言ってみたり… 例えば、そんなような事でも十分なのさ。

ほんの些細なことでもいいんだね。 そして、アートを向ける先が目の前の相手一人だけでも、良いということか。

とにかく受け身で感じるだけではなく、どんな方法でも良いから、どんなに小規模でも良いから、自分の内面を具現化して表出しつづけることが大事なんだ。

僕たちの世界でも教訓になりそうな考えだよ、ありがとう。

子供ね。 先に話した通り、私たちの生きる目的は感じることだ。

うん。

すると、私たちの種全体の目的はこうだ。 “感じる”量を増やすこと。 つまり、種全体としてのフィーリングの量を最大化することにある。

ほう。

そのためには、フィーリングの源泉であるアートと、アートをつくる存在、それらは増えれば増えるほど良い。 私たちにとって、生殖はそのための手段の一つだ。

アートを育むために、命を育むということなんだね。

うん。 一個にとって命はひとつだし、寿命も限りがあるだろう。 けど、一個が作ったアートと、それが生んだフィーリングは残り続ける。 命を燃やして生まれたアートとフィーリングは、命が燃え尽きたあとも巡り続けるんだ。

なるほど、良い考え方だ。

実はね、私自身は子供がいないんだ。 だからなおさら、大乗アート教の素晴らしさを感じているんだよ。

そうだったのか。 君が感じている素晴らしさとは何?

何かを感じつづけて、アートに生きつづけてさえいれば、自己は実現できる。種のためにもなる。 これが私たちの価値観だからね。

感じること・表現することが最上位にあるからこそ、それが満たされてさえいれば人生は充実しているんだね。

その通りだよ。 おや…なんだか視界が霞んできたな。

…少しずつ意識が薄れてきたね、これは終わりの合図なんだ。 今日はすごく刺激になる会話をありがとう。

どういたし…まして。 君が…良いフィーリングに恵まれることを…祈っているよ。