先日、「iCloudにアップしていた動画が勝手に削除された」という、にわかには信じがたいツイートが流れてきた。
問題のツイート(@takaaki_ichijo)を見る →(※現在は投稿者がアカウントを非公開にしているため、リンク先が表示されないことがある)
「出産の動画」という内容から察するに、ポルノ的なものだと誤判定されて削除された、ということを言っているのだろう。
僕も最近子供が産まれ、毎日のように写真を撮っている。
かわいい瞬間があればたとえ裸でも他意なく撮影することもあるし、それを勝手に削除されたらたまったものではない。
せっかくiCloudの大容量プランが発表されて喜んでいたのに、万が一そんな酷い仕様があるならクラウドサービスの乗り換えも検討しなければならない。
というわけで、この件について調査し、さらに直接問い合わせをしてみた。
Appleによる検閲の噂
この件についてググってみると、Google Drive上で同じようなファイルが削除されたという話がいくつも見つかる。
確かに僕も、YouTubeに限定公開でアップしたホームビデオに子供の裸が映っており、AIによって削除されるという災難には遭遇したことがある。
Googleはこの点について明確に厳しいスタンスを持っているのかもしれない。
がしかし、iCloudにおいて「勝手に削除された」という話は検索してもほとんど見当たらない。
Apple公式のサポートも操作や設定のミスが無いか確認するような内容のみであり、他にヒットする記事もトラブルシューティング的な話ばかりだ。
他方、2021年8月、Appleは「iCloud写真に対して児童ポルノ(CSAM)の検出機能を搭載する」と発表していた。これはiOS15のアップデートで導入される予定だったが、後述のとおりこの検出機能は結局一度も実装されないまま見送られている(※当時の発表ページからは、現在ではこのCSAM検出に関する記述は削除されている)。(参考記事:ライフハッカー)
しかしながらこの計画は、プライバシー批判を受けて、まず2021年9月にいったん延期され、その後2022年12月に正式な中止が表明された。
Apple公式のプレスリリースではなく、WIREDに寄せた声明という形での発表だったようだ。(参考)
つまり、Appleは過去児童ポルノ対策のための検閲機能をリリースしようとしたが、それを断念した、という経緯は確かに事実としてあったようだ。
Appleの規約を確認
以下にAppleの規約から関連する条項を引用する(本記事執筆当時・2023年9月時点の版より)。
V. コンテンツおよびお客様の行為
お客様は、本サービスにおいて、(中略)すべてのコンテンツがその発信者の単独の責任に帰するものであることを理解するものとします。(中略)Appleは、本サービスを通じて掲示されるコンテンツを管理せず、またかかるコンテンツの正確性、完全性もしくは品質についても保証しません。
上記の内容からは、内容の責任はすべて利用者にあり、Apple側は「管理しない」と言っているので、削除することはなさそうに思える。
しかし、以下のような記載もある。
B. お客様の行為
お客様は、以下の行為のために本サービスを利用しないことに同意するものとします。(このあとに、本サービスの妨害や不正アクセスなど12項目の禁止行為が列挙されている)
C. コンテンツの削除
お客様は、他者から提供されたコンテンツについてAppleが何ら責任を負わず、そのコンテンツを検閲するいかなる義務も負わないことを認めるものとします。ただし、Appleは、常にコンテンツの適切性および本契約の遵守性を判断する権利を留保するとともに、そうしたコンテンツが本契約に違反し、不適切と認められるときは、いつでも予告なく、独自の裁量により、そのコンテンツを検閲、移動、拒絶、修正、および/または削除することができます。
これらを踏まえると、「必要に応じて検閲することも削除することもできる」と言っているように捉えられる。
ただ、「他者から提供されたコンテンツについて」という点が引っかかる。
自分でiCloudにアップした写真にもこれが当てはまるのだろうか?
Appleに直接問い合わせてみた
規約からはよくわからなかったので、Appleのサポートに直接尋ねてみた。
まず上記ツイートを引用しつつ、「本当に勝手に写真が削除されるということがあり得るのか」チャットで質問した。

すると、「上席の電話部署からご案内します」とエスカレーション対応となった。

その後すぐに電話がかかってきた。
お忙しいところ失礼いたします。Appleケアの○○です。
受付をしますので、お名前をお伺いできますでしょうか。
はい、○○○と申します。
ありがとうございます。今回のお問い合わせの内容ですが、お写真のついてのお問い合わせでしょうか。
はい。
お問い合わせをチャットで頂いていたんですね。ちょっと状況確認を取りますのでお待ちください。
…はい、お待たせいたしました。
では、iCloud写真が消える現象についてということでお間違いないでしょうか。
はい、そうですね。
ではこちらの内容について状況を確認しまして、内容によっては担当部署を変えてご案内となりますが、Appleの方でしっかりご案内ができればと思いますので、よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
実際こちらの症状は今現状○○様の方に起こっているという訳ではない、ということでしょうか。
そうですね。
わかりました。こういった症状があるかどうかということを確認されたかった、ということですかね。
そうですね。
症状というか、Appleさんのポリシーとしてそういうことをする可能性があるかどうかということを確認しておきたかったという感じです。
はい。こちらのiCloudのデータについては、ご利用頂いている○○様のApple IDとパスワードで管理されているというものになりますため、AppleがiCloud情報にアクセスをして何か操作をするということはできない仕組みとなっております。
そのため、何かが突然消えてしまったという状況が起こった場合、これまでの操作手順などに何か問題がなかったかなどを一緒に確認取らせて頂くということはできるのですが、その時の状況によってご案内の内容が違ってくるため、今現状の段階では、Apple側で何か消すということはないというご回答はできます。
あ、そうなんですね。
まさに確認したかったことは、Appleとしてユーザー側のコンテンツを削除する可能性があるかという点だけだったので、それが確認できれば大丈夫です。
よかったです。
なので今回のiCloudの件だと、Apple IDとパスワードで管理されておりますから、こちらの方にアクセスできるのは情報を知っていらっしゃるお客様のみですし、Appleの方で勝手に操作をされるということはまずございませんので、どうぞご安心くださいませ。
よかったです、安心しました。ありがとうございます。
結論
このように、しっかりとApple公式から「Apple側として削除することはない」という言質を取ることができた。
これで安心してiCloud+の容量を拡張できるぞ!
ユーザー目線のサービスと、素晴らしいカスタマーサポートを提供するAppleに感謝である。
ちなみに、上述したAppleが写真に対して児童ポルノスキャンをかける仕組みを実装することを断念したことに対して、この記事を書いた2023年9月頃には、擁護団体から抗議を受けているという情報もあった。
Appleとしては今のスタンスを崩さないという回答をしているようだが、今後の世界的な世論の動きによってはどうなるかはわからない。
大切な思い出を守れるように、この辺りの動向はいちユーザーとしてもしっかり追っていかなければならない。
2024年以降の追記
この記事を書いたあと、CSAMスキャンをめぐる状況は大きく動いた。皮肉なことに、今度はAppleが検出機能を「実装しなかった」こと自体が問題視されるようになっている。
2024年12月には、スキャンを取りやめたApple自身の判断を訴える集団訴訟が米カリフォルニア州で起こされた。原告は児童性的虐待の被害者ら(潜在的な対象は約2,680人)で、勝訴すればAppleは12億ドルを超える賠償を負う可能性があると報じられている。さらに2026年2月には、米ウェストバージニア州の司法長官が「iCloud上のCSAM対策を怠った」としてAppleを提訴した。政府機関による同種の提訴は初めてだという。
つまり「Appleが勝手にスキャン・削除しない」という本記事の安心材料そのものは今も変わらない。だがその裏返しとして、Appleは今度は「検出を怠った」と法的責任を問われる側に立たされている。プライバシーと子どもの保護をどう両立させるのか——この難問は、いまだ決着していない。
